髙橋知也・インタビュー | INTERVIEW

監督:髙橋知也

髙橋知也

監督自身も幼少期「美少女戦士セーラームーン」を楽しんでいたファンのおひとりですよね?今作の監督に決まった時はいかがでしたか?

嬉しさ以上に緊張感の方が強かったです。武内先生が作り上げた原作をアニメで表現すること。世界中にたくさんのファンが待ってくれている最終章。みなさんの気持ちに答えなければ、というプレッシャーを感じました。
<シャドウ・ギャラクティカ>編には、【どんな辛いことが起きても逃げずに立ち向かう】、そんなうさぎのまっすぐな想いに、武内先生の生きる上での哲学が詰まっているんです。観てくださるみなさんが、うさぎの気持ち・想いに寄り添えるように描いていかなければと制作をはじめました。

画として工夫された部分はどのようなところですか?

原作漫画では、うさぎの一人称を中心に描かれていくので≪うさぎの視点≫を意識しています。例えば、冒頭の登校シーンでは走っているうさぎの視点で亜美やまこと、美奈子が通り過ぎていく。観てくださるみなさんが自然とうさぎと重なるように、うさぎの存在を身近に感じてもらえるようにできればとカメラを切っています。客観的な視点で、物語全体を見る方法ももちろんありますが、うさぎの気持ちの流れをわかりやすくすることで、彼女がどれだけの経験を経て、どんな心境で敵に立ち向かっていくのかが伝わるよう、ラストから逆算してうさぎの気持ちを丁寧に描きました。

「Cosmos」では、今までの物語以上にうさぎちゃんの感情が大きく揺れていますよね。

そうなんです。特に序盤は、衛からのプロポーズの直後にセーラーギャラクシアに消されてしまい、さらには自分の記憶をも偽ってしまう。一度は自分を追い詰め切るまで沈みかけていたうさぎちゃんが、仲間の存在もあって、前を向いてセーラーギャラクシアに立ち向かっていく。そのドラマの部分を映画として表現できればと思っていました。うさぎは前世では自ら命を失う選択をしてしまうんですが、今回の最後は全く違います。成長して、迷わず前に進む、うさぎの強い思いと愛を感じてもらいたいです。うさぎちゃんをどうか最後まで見守っていってほしいです。

≪後編≫の展開がますます楽しみになりますね。

ぜひ楽しみにしていただきたいです。≪後編≫を観た後にもう一度≪前編≫を観ていただけると、より成長していくうさぎちゃんが感じていただけると思います。

監督が今回こだわったポイントも教えていただけますか?

敵キャラクターたちも含めて、全員セーラー戦士なので敵味方変わらず技のシーン、変身シーンは全部描くぞと気合を入れて挑みました。現場的なことを言うと、「美少女戦士セーラームーン」以外の作品でもそうですが、変身バンク・技バンクは、毎話同じものを使う事で他のパートへの作画リソースを割く意味合いが強いんです。今作では、使いまわしはないので“バンク”としての活用はできていなくて(笑)。けど、大変だからって理由で端折ってしまうと、それはみなさんに楽しんでもらえる「美少女戦士セーラームーン」ではなくなってしまうのですべてを描きました。一緒に頑張ってくれた現場のみなさんには頭が上がらないです。
 絵として、みなさんに馴染みのあるもので観ていただきたいなと思い、90年代TVアニメを思い出していただけるよう背景づくりをしています。再現というより、オマージュですね。写実的に作るのではなく、少しファンタジーの要素も入れ込むようなイメージです。光が当たっているところにピンクのハイライトをいれたり、中間色に青や縁を使ったり、影色にもハイライトを入れてみたり。美術監督の空閑さんとやり取りを重ねて今の形になりました。

背景はファンの方もすぐに気づいてらっしゃいましたね!
そしてオマージュ繋がりで言うと、オープニング映像もファンのみなさんが感動していたポイントかと思います!こだわりを教えていただけないでしょうか?

誕生から30年以上も愛されている「美少女戦士セーラームーン」。最終章である以上、これまで「美少女戦士セーラームーン」に触れた人達が、もう一度出会っていただき、そしてあの頃の気持ちを思い出してもらいたいと思いあのオープニングを作成させていただきました。新シリーズとしての集大成はもちろんですが、「美少女戦士セーラームーン」としての集大成として届いていただけたら嬉しいです。

今回のキーキャラクターの一人でもあるギャラクシア。彼女もすごく丁寧に描かれているように感じました。監督からみてギャラクシアはどんなキャラクターですか?

金色の甲冑のようなコスチュームで、セーラーアニマメイツたちをはじめ滅ぼした星の戦士たちをブレスレッドで従わせているセーラーギャラクシアは、 “強い女性”としてのイメージが大きいと思います。けれど、林原さんもコメントされていましたが、彼女には彼女の正義があるんです。焦燥感や心の中の欠けたところも丁寧に描いていきました。僕は、セーラーギャラクシアや敵のキャラクターたちは、“うさぎになれなかった女の子”たちだと思って描いています。もし生まれる場所が違ったら、もし近くに理解をしてくれる人がいたら、うさぎのようにまっすぐに突き進んでいけるようになっていたかもしれない。90年代のTVシリーズだと、敵は銀水晶の力で浄化されて人間に戻ったりもしていますが、原作ではそうではないんですよね。辛さや悲しみから逃げずに正面から描いているんです。今作でもこの辛さからは逃げてはいけないんだ、と常に意識して描きました。セーラーギャラクシアの欠けた部分もきちんと描くことで、この物語、そしてうさぎの本質の部分をより濃く出せたらと思っています。
さらにそこに三石琴乃さんと林原めぐみさんのお芝居が凄まじくて脱帽しました。アフレコはおふたり一緒にしているんですが、≪後編≫のラストでは、ふたりともどんどんヒートアップして、タガがはずれはじめて。予告映像で使われていた「戦え!この私と!」って言っているところなんかは、音響卓にいるこちらもが圧倒されてしばらく黙ってしまうくらい素晴らしかったです。

ますます≪後編≫が楽しみになります!最後に読者に向けてメッセージをいただけますでしょうか。

武内直子先生の思いがいっぱい詰まった、「美少女戦士セーラームーン」の集大成である<シャドウ・ギャラクティカ>編。みなさんの期待を裏切らないように精一杯作らせていただきました。一回見ただけじゃ分からないような小ネタもいっぱいあるので、ぜひ注目してみてください。セーラームーン、最後の戦いをどうぞお楽しみください。